12月4日・5日、日本理学療法士協会主催の日本理学療法士学会連合の分科会として日本地域理学療法学会・日本支援工学理学療法学会・日本理学療法教育学会・日本理学療法管理研究会の合同学術大会2021がWeb開催されました。

一般財団法人愛生会多摩成人病研究所から、筆頭演題者として佐藤が「2020年緊急事態宣言に伴う高齢者のフレイル化についての一考察」の演題名で口述発表を行いました。

座長質問で、身体機能評価としての評価についての質問があり、フレイルは下肢の筋力低下に表れやすいため、flail CS-10が妥当ではないかとのことでありました。

昨年実施した各事業所の評価項目調査でも、CS-10を行っている事業所は僅少で、また、厚労省の介護保険算定基準でも運動器向上加算の評価項目にも入っていないため(握力は評価項目に指定されていている)、現状ではデータの収集が困難ですが、今後、グループ内の利用者の身体機能評価として標準化ができれば、下肢筋力の評価としての精度向上となると可能性があると思います。

担当 佐藤

―介護事業所利用者の身体状況の変化及び介護事業所側の諸問題-

要 旨

背景:COVID-19 の蔓延の感染予防対策として、我が国において2020年に発令された緊急事態宣言は、大都市を中心に社会生活の活動抑制が起こり、高齢者のフレイル化の懸念が起きた。

本調査研究は、緊急事態宣言下での介護事業所の対応と、利用者の筋力の変化を調査し、その影響について検証した。筋力の変化は利き手握力を指標とした。

 方法:湖山医療福祉グループの介護事業所を対象に、2020年の事業所感染予防対策と、2019年4月から2020年12月までの間に、握力を測定した利用者のデータを後方視的に収集し、年齢、性別、事業所の形態別に検討し、さらに、筋力低下の因子分析を事業所の感染予防対応を説明因子として分析した。

 結果:年齢は高齢者ほど筋力低下が起こり、事業所はデイサービスの低下が指摘されたが、通所リハは有意な筋力低下が認められなかった。また、これらの筋力低下は、加齢現象としての筋力低下よりも低下が認められた。

 筋力低下の因子としては、通所利用時間の短縮と機能訓練の制限が増加因子であった。

 結語:社会活動制限下では介護事業所を利用している高齢者のフレイル化が助長されたことが検証され、それは高齢であるほど大きくなることが実証された。利用者の身体状況に対しての評価や人員配置が厳しい通所リハは、基準の緩やかなデイサービスよりも利用者の身体状況の把握と対応についての精度が高いことが考えられ、デイサービスの今後の利用者対応への一考を示唆するものと考える。

 さらに、利用者の状況を検証するための手段としての多施設共同研究では、データの信頼性と再現性を担保するために、検者間信頼性を高める事が重要であることが今後の課題として指摘された。

キーワード:介護施設高齢者 不活動 筋力低下 

はじめに

2019年、中国武漢で発生したCOVID-19 は、2020年冬に世界的に蔓延しパンデミックとなった。本邦でも、この新型ウィルスへの感染対策として2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく措置として、2020年の4月7日から5月25日にかけて緊急事態宣言が発令された。2020年に発令された宣言は、未知のウィルスの蔓延化を防止するために、感染防止の徹底と、人と人との接触を避けることを目的とした外出自粛の要請、施設の使用停止・催物(イベント)の開催自粛の要請、ソーシャルディスタンシングの促進、スーパーマーケット、公園等における感染拡大防止の要請が、上記の期間で全国一斉になされた。2020年の緊急事態宣言発令により、我が国の多くの公共施設が一時的に閉鎖され、介護福祉施設も宣言の対応に追われた。

このため、このような社会的な生活制限下においては、高齢者の不活動の影響が、高齢者のフレイル化を助長されることが世間では懸念された。よって、緊急事態宣言の前後において、特徴的なフレイル化が進んでいる可能性があると予見した上で、フレイル化の実態を把握するために、高齢者の社会的不活動による身体的影響の調査を後方視的に行うことを計画し、500を超える介護事業所を有する湖山医療福祉グループ内で調査を行った。

湖山医療福祉グループにおける研究は、そのスケールメリットから、多施設共同研究が行えるため、短時間に多くの症例数を集める事が出来るメリットがある。例えば1000例の症例を集める場合、1施設では多くの時間が費やされるが、100施設では1施設当たり10例の症例が集まれば短時間での結果が出すことが可能である。半面、デメリットとしてサンプルの収集方法や研究データの取得方法、介入の手順などが統一され、正しい手順で行われていなければ、データの正確性と信頼性は損なわれてしまい、誤った結果となる危険性がある。

そこで、今般、湖山医療福祉グループ内での大規模共同研究が可能かどうかの実証実験も同時に行うこととした。

対象と方法

  • 利用者の身体的状況に対する評価項目の予備調査。身体的影響の調査項目を決定する目的にて、各事業所が行っている評価項目を洗い出すために、湖山医療福祉グループ内の全事業所に対して、利用者の身体的評価項目の調査を行った。
  • 上記調査により、利用者の握力を筋力の評価項目とし、他に日常生活機能の評価項目としてBarthel Index(以下BI)、認知機能評価項目として長谷川式簡易知能評価(Hasegawa dementia rating scale-revised、以下HDS-R)およびCOVID-19の蔓延に対する事業所の対応についての調査を行った。対象事業所は予備的調査の結果、利用者に対して握力測定を行っている事業所、318事業所を対象とした。握力は、利き手もしくは握力の強い方の手とし、毎回同じ手の握力をデータとして選択した。
  • 利用者の抽出は各事業所にてランダムに抽出し、1事業所あたり20症例を目標とし、調査期間は2019年4月から2020年12月までの利用者の記録から、後方視的に上記項目を抽出した。
  • 2019年度前半(2019年4月から9月、以下19_前)、2019年度後半(2019年10月から2020年3月、以下19_後)、緊急事態宣言期(2020年4月から6月、以下制限宣言期)、2020年度後半(2020年7月から12月、以下20後)のそれぞれの期間の握力測定データの平均値を症例ごとに算出し、Friedman検定にて4群間の比較を行った。P値の補正はbonferroniにて補正した。
  • さらに、上記の経時的比較を年齢を69歳以下、70歳から79歳、80歳~89歳、90歳以上に群別を行って年齢別の比較、事業所のサービス形態別(デイサービス、通所リハ、有料、特養)、性別による比較を行った。
  • 19_前と20_後の個別的筋力の低下した群において、関与した因子の検討をロジスティック回帰分析にて行った。

結 果

①予備調査

予備調査の回答は通所系100、通所系以外218、合計318事業所(回答率約50%)であった。各事業所の利用者状況の評価スケールは表1のとおりで、全回答中、筋力評価項目としてMMT:30.2%(96事業所),握力:25.4%(81事業所)、バランス機能評価項目として片脚立位時間:27.4%(87事業所)、TUG:21.7%(69事業所)、歩行機能評価項目として10m歩行速度:20.1%(64事業所)、ADL評価項目としてBI:26.1%(83事業所)、認知機能評価項目としてHDS-R:26.7%(85事業所)、疼痛機能評価としてVisual Analogue Scale(以下VAS): 14.2%(45事業所)が多く行われていた。すべての評価項目とも、通所系事業所での評価数が多く、入所系などの通所系以外の事業所での評価数は少なかった。

② COVID-19 による高齢者の身体状況の調査においては、握力評価を行っている対象事業所81のうち、回答があったのは52事業所(64%)、各事業所からサンプリングされた握力測定の症例総数は650症例、そのうち、2019前半、後半、2020後半の期間にそれぞれ最低1回の握力評価を行っている有効症例数(以下有効症例数)は461、握力評価に加えてBIを評価している事業所は14事業所(17%)有効症例数は102、握力評価に加えてHDS-Rを評価している事業所は5事業所、同有効症例数は31、握力評価に加えてBIとHDS-Rの3つとも評価している事業所は4事業所、有効症例数は29であった。

③ 各事業所からサンプリングされた数の症例数の平均は12.49±4.78 最頻値は10(17事業所)、最大値は20(4事業所)、最小値は4(1事業所)であった。

 一元配置分散分析において、各郡での有意差が認められた(p<0.001)。群間比較では、19_前と19_後、19_前と20_後、19_前と宣言期で有意差が認められた(p<0.001)が、19_後と20_後においては有意差が認められなかった。群間比較はFriedman検定にて4群間の比較を行い、bonferroni法にて補正した

⑤-1 年齢別の比較では、同様にFriedman検定、bonferroni法補正にて、69歳以下、70歳代では握力の変化に有意差は見られなかったが、80歳代、90歳以上においては、19_前と19_後、19_前と20_後、19_前と宣言期で有意差が認められた。(p<0.001)

⑤-2 サービス別の比較では、同様にFriedman検定、bonferroni法補正にて、デイサービスにおいて、19_前と19_後、19_前と20_後、19_前と宣言期で有意差が認められ、有料にて19_前と20_後に有意差がみられたが、通所リハでは有意差は認められなかった。特養ではサンプル数が少なく比較ができなかった。

⑤-3 男女の性別の比較では、同様にFriedman検定、bonferroni法補正にて、男性では19_前と20_後において有意差が認められ、一方女性では19_前と19_後、19_前と20_後、19_前と宣言期で有意差が認められた。

⑥-1 事業所の感染予防に対する対応と握力の増減の関係
握力の低下した群と維持・増強した群において、リスク比の検討を行った。

⑥-2 握力低下と事業所の対応の関連因子分析
握力低下群に対して、握力を目的変数、事業所対応の6項目を説明変数として、ロジスティック回帰分析を行い、握力低下の因子分析の結果、サービス提供時間の短縮と機能訓練の回数の削減が握力低下を増長する因子として指摘されたが、サービス利用回数の削減は統計的な有意差はなかった。

考 察

結果より、今回の調査では、利用者の経時的握力の低下を認めた。特に、80歳以降の高齢者では筋力低下が明らかな結果となった。池田ら(2010)によれば、握力と体力との相関が認められ、特に大腿四頭筋力との強い相関があるとしている。2)また、廣瀬らは握力と肩関節外転筋力、肘関節筋力との相関関係を検証している(2001)。3)また、厚労省スポーツ庁による体力・運動能力調査(平成30 年度)によれば、握力では、男性で最大となる 30~34 歳の 47.14kg と比べ、65~69 歳では16%減少し、女性で最大となる35~39 歳の 29.02kg と比べ、65~69 歳では 13%減少しているに男性では年平均0.43Kg、女性では0.23Kgずつ加齢的に握力低下があるとされ、それ以上の握力低下はフレイルな状態との見解もある。本研究の結果からも、19前(4月から9月の平均)と20後(7月から12月の平均)のおおよそ1年間の比較では年齢別で80歳以上での低下は平均値で0.43㎏より上回っており、また、同様にサービス別での低下は、デイサービス、有料老人ホーム、特養で同様の期間での低下は平均値で0.43㎏より上回っていた。このことは、これらのサービス形態では、個々の症例では確実にフレイル化が起きている可能性が指摘され、個々の症例に沿った評価と観察、およびアプローチの必要性が示唆される。対称的に、通所リハでの握力低下は加齢基準よりも下回っていることは、サービス形態としては個々のモニタリングがされていることと、個別的アプローチがなされている事が握力低下が著明でなかったためと予想される。

また、サービス提供の個別的配慮に関して、機能訓練の制限や通所時間の短縮が握力の低下因子となった。COVID-19の感染対策として、介護事業所のサービス提供のあり方を考察する上で、基本的感染対策としてスタンダードプリコーションや、飛沫対策、6つのタイミングの手指消毒などの基本的対策の徹底の上で、サービス提供の減少を最低限にとどめることの必要性が明らかになり、身体的活動性を維持していく機会の重要性が浮き彫りにされた。さらに、効果的な身体活動の環境提供のために、身体運動を個別的に計画することと提供していくことの重要性が示唆される結果となった。

 今回、握力を指標として高齢者の筋力の比較をした。筋力の指標としては、他に大腿四頭筋などのMMTによる指標も考えられ、今般の予備調査でもMMTの実施事業所が多かったが、MMTは肢位や測定方法や代償動作が起きやすく、また測定者による主観的な順序尺度であるため、今般の調査のように多数の事業所間での多施設共同研究には正確性と再現性に乏しいと思われ、採用をしなかった。また、MMTでは粗大筋力の測定(屈伸等の多筋協働筋力)をしているという回答も含まれていたため、特定の筋群での比較は難しかった。

さらに、同時に調査したBIとHSD-Rも、握力のデータ数に比して少なく、関係性の追求は見送った。

 握力のデータの比較においても、多施設共同研究においては、握力測定の方法の標準化などによって、測定器具の誤差の排除、検者間誤差の排除を行わなければならないが、今般はその部分をあえて無視し、グループ内の大規模調査を行った。これは、今後のグループ内でのデータの収集とその信頼性を確認することも一つの目的としていたためである。

 その意味では、事業所間でのデータの収集に大きなばらつきがあり、例えば要支援者の運動器機能向上加算の算定では、本来であるならば、少なくとも3カ月に一回の評価が必要であるにもかかわらず、実施されていないケースや、逆に毎月評価を行っているケースも事業所ごとに差異が認められた。さらには、BIの評価やHDS-Rなどの他の評価との連動は極端に症例が減少して、個々の利用者の傾向を多角的に評価しているかが問われる結果であった。今般の調査研究では、個々の事業所にデータの提出の負担をかける結果となったため、各事業所ではその意味も目的も理解に苦しむことがあったと思われる。症例数の提出目標も20例としたが、20例症例を出して頂けた事業所も多くあった半面、あまり症例を頂けなかった事業所もあった。

 今後の課題として、どのように症例数を確保するのかと、どのようにデータの収集を行うかが最重要課題と認識するに至った。2021年の介護報酬改定では科学的介護情報システム(LIFE)への情報提供が介護加算算定の必須項目(科学的介護推進体制加算)となった。「科学的介護」の狙いは介護給付費分科会によれば介護のビッグデータ化とその結果、もたらされる科学的エビデンスを活用したPDCAサイクルの構築とされている。このことは2019年4月の与党介護政策としても、①利用者の要介護度や自立度を改善した介護サービス事業所に対するインセンティブを強化し、②(介護)報酬体系を、現行の人員配置に連動する仕組みから、介護サービスの質に応じた成果・実績払いの要素を加味する、ことを(LIFE)を通じて具現化するものである。さらには介護保険法の目的でもある「要援護高齢者の自立支援」のために、形式主義から実績主義への転換点とも読み取れることができよう。したがって従来、アウトカムについて介護事業所ではプラスアルファの位置づけであったものが、2020年4月を起点として、介護事業所の経営課題として個々の利用者のアウトカムを明確に位置づけていくことが要請されるものとなった。LIFEについては加算算定の要件としてだけの利用ではなく、積極的に利活用することが利用者、介護事業所にとって求められる。このLIFEの情報の集約を行うことでグループ内のデータベース構築が推進される期待が高まった。この事により今般の収集方法のように、現場への負担をかけることを抑え、さらには、データの確保がされて、国が分析するよりも、もっと現場に寄り添ったグループ内での情報の還元ができうる可能性がある。データの正確性を担保するため、今後は評価の基準の制定をして、データの信頼性と再現性を担保する必要がある。

結 語

緊急事態宣言による社会的活動制限が、高齢者のフレイル化を助長する事の検証を目的に、湖山医療福祉グループの介護事業所を対象に、緊急事態宣言下での事業所対応と、利用者の筋力の指標として握力の変化を調査した。

今回の調査では、高齢であるほど、デイサービスにおいて筋力の低下が起きやすい傾向にあり、性別による差は有意ではなかった。この事は、利用者の身体状況に対しての評価や人員配置が厳しい通所リハは、基準の緩やかなデイサービスよりも利用者の身体状況の把握と対応についての精度が高いことが考えられ、デイサービスにおける今後の利用者対応へのサービス提供の精度向上に対しての課題とされる。

さらに、事業所対応ではサービス提供時間と、機能訓練(リハビリテーション)の制限が、筋力低下の因子として指摘され、身体活動を有効に行うための事業所対応運営に関しても一考を促すものと考える。

また、この母集団での調査では、利用者の身体状況の把握のための、評価の正確性と再現性さらには検者間信頼性の向上が今後の課題であることが指摘された。

参考文献

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キーワード:LIFE、アンケート調査、業務効率

はじめに

令和3年度介護報酬改定により制定されたLIFEへの対応に関して、介護現場では多くの混乱が見られた。今般、湖令和3年度介護報酬改定により制定されたLIFEへの対応に関して、介護現場では多くの混乱が見られた。今般、湖山医療福祉グループ内の各法人、施設、事業所に対して、その取り組み状況と問題点を探ることにより、LIFE対応の課題を浮き彫りにし、課題解決への方策への道標を作っていくことを目的とし、調査を実施した.

対象と方法

対象:湖山医療福祉グループ内の全職員

方法:Webによる記名式アンケートにて、回答者の基本情報の他、選択式回答にて事業所でのLIFEの進捗状況、使用ソフトウェア、算定予定の項目、LIFEに関して現在感じていることと、自由記載にてその他困っている事知りたい事を調査した。今回の研究発表は、調査結果から、事業所のlifeへの取り組み状況と、認識される問題点を分析した。

調査期間:2021.6.11~20216.30

結果

アンケートの有効回答数は393、回答法人数は32法人であった。

全体での問題点の傾向は、手入力が発生して面倒である、入力項目が多いが多く、7項目の選択項目の中で優位に多かった(p<0.05)。また、実際に利用者情報を報告したまたは入力を行っているなど、実際にLIFEに入力などの取り組みを行っている事業所とLIFEにまだ取り組んでない事業所との群別比較では、上記2項目がLIFEに取り組んでいる事業所の方が優位に多かった(p<0.05)。また、フィードバック機能が不明という項目も、LIFEに取り組んでいる事業所の方が優位に多かった(p<0.05)

考察

LIFEは、厚労省が推LIFEは、厚労省が推進しようとしている科学的介護の推進のためのデーターベース(以下DB)あり、そのシステムを利用することにより介護報酬加算をつけるという、厚労省のDB作成のための誘導施策である。しかし、今般の調査研究からも、データーの提出時には、入力項目の多さと手入力の発生が課題であることが明確になり、介護現場に多くの労力を課している状況が明らかになった。またLIFEに付加されているフィードバック機能も現時点では不明であり、今後の展開が待たれる状況である。このため、LIFEは介護現場の業務効率化を志向していないとも思われるが、介護加算算定による収益増加と、介護現場に科学的エビデンスを付加していくためには、現場での業務負担を付加しない施策の展開と、今後のフィードバックの機能展開が必須であり、我々湖山医療福祉グループ内でも、上記課題の解決手法を開発展開していく事が望まれる。

目 的

近年本邦でも喫煙に対する社会的問題が取りざたされ、学校・病院・公共施設や飲食店等での全面禁煙化がすすめられている。一方、医療従事者の喫煙率の高さも指摘されているが、介護現場での喫煙についての報告は少ない。そこで本調査では、湖山医療福祉グループの職員を対象に、喫煙状況と喫煙意識の調査を行い、介護現場での喫煙に対する検証を行うことを目的とした。

方 法

2021年に湖山医療福祉グループ(650事業所)に勤務する全職員(15,000人)に対して、無記名Web式アンケートを行った。職員は医師・歯科医師、介護職、看護職、リハ職(機能訓練指導員含む)、管理栄養士・栄養士、薬剤師、管理職、事務職、相談員、保育士・母子支援員、健康運動指導士・介護予防指導士など 介護予防スタッフ、音楽療法士・臨床心理士などの上記以外の専門職、労務職、その他であり、アンケート項目は年齢、性別、職種、勤務形態に関する項目と、喫煙に関する項目として喫煙の有無、心理的ニコチン依存の評価尺度の加濃式社会的ニコチン依存度(The Kano Test for Social Nicotine Dependence 以下KTSND)、喫煙に対する意識を調査した。KTSNDは、10項目からなる質問式アンケートを4つの答えから選択し得点化する意識調査で、喫煙状況に関係なく回答することが可能であり、総得点が高いほどタバコ製品や喫煙を許容、 肯定、容認する態度や意識が高いこと、それらの意識に対する「思い込み」が大きいとしている。すなわち、たばこに対する寛容度を表す指標として用いた。さらに、介護現場での喫煙・禁煙意識は「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うか」という質問をして、「そう思う、ややそう思う、あまり思わない、思わない」の4つの答えから選択をしてもらった。

結 果

回答は2551人、回答率は約17%であった。性別、年齢、喫煙状況、KTSNDの質問全てに回答のあった2493人を有効回答とし、解析対象とした。(有効回答率16.6%)

図1に年齢別・職種別の喫煙率を示し、折れ線グラフで令和元年度の本邦年齢別喫煙率(厚労省)を示す。女性では介護職・看護職がどの年代でも全国平均より高く、管理職の30代、40代、60代。相談員の20代、30代、40代、60代。事務職の40代、60代。労務職の20代、30代、50代、60代が高かった。男性では介護職・事務職がどの年代でも全国平均より高く、リハ職の20代、30代、50代、60代。管理職の30代、40代、60代。相談員と労務職の60代が全国平均より高値であった。性別全体では男性23.9%(187人)、女性22.6%(374人)であった。(図1)

図1 職種_年代別喫煙率

属性と喫煙率の関係は表1の通りで、現在喫煙は、サンプル数の少ない職種を除くと、職種では介護職23.7%(257人)、リハ職25.7 %(52人)、事務職20.2%(49人)、看護職23.0%(48人)、管理職25.0%(39人)、労務職20.0%(37人)、相談員19.1%(22人)、栄養23.1%(21人)等であった。年齢別では60代26.7%(60人)、20代23.2%(141人)、40代23.0%(137人)、50代22.8%(97人)、30代22.2%(130人)であった。また、20歳以下も15.0%(3人)の喫煙があった。(表1)

 Pearson のカイ2乗検定で、性(p<0.01)、年齢(p<0.01)、職業別(p<0.01)で有意差があった。

 介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うかの質問は、喫煙意識に対しての設問であるが、思わない26.1%(660人)、あまり思わない38.5%(975人)、ややそう思う220.1%(509人)、そう思う15.2%(386人)であった。現在喫煙者の「そう思う」と回答した割合は1.4%(8人)であった。

次に表 2 において属性、喫煙歴、職業、KTSND と 喫煙意識について関係を示す。年齢、職業、喫煙歴、KTSND ごとに分 け、Pearson のカイ二乗検定にて解析を行った。その結果、年齢、職業、KTSNDにて有意差はなかったが、喫煙歴(p<0.01)、 KTSND(p<0.01)で有意差を認めた。 KTSND平均は「そう思わない」18.17±5.98、「あまりそう思わない」15.17±4.78、「ややそう思う」13.13±4.63、「そう思う」9.26±5.27であった。「そう思う」群が他の 2 群 に比べ、有意に低かった(p<0.01)。 (表2)

喫煙意識に寄与する要因を検討したロジスティック回帰分析の結果を表3 に示す。「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うか」という質問に対し、従属変数は、「そう思わない」と「あまりそう思わない」と答えた群と、「ややそう思う」と「そう思う」と答えた群のカテゴリーとした。年齢を40歳以上(以下年長者群)、39歳以下(以下若年者群)として、独立変数は、性、年齢群、職種、喫煙歴、KTSND とした。結果、オッズ比(OR)、 及び 95% 信頼区間(95% CI)において、過去喫煙 (OR 4.14、95% CI:2.98-5.75、p<0.01)、非喫煙(OR 5.41、95% CI:4.12-7.28、p<0.01)、 KTSND10点未 満(OR 0.30、95% CI:0.24-0.38、p <0.01)において有意な関連を認めた。性、職種間 、若年群₋年長者群(以下年齢群)では有意な差は認められなかった。

これらの事より、「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではない」という意識に於いて、 喫煙歴、喫煙への寛容度(KTSND)が寄与していた

考 察

今回の調査で、介護福祉施設の喫煙率は全国平均と比べて、どの年代も高い傾向にあり、特に女性の喫煙率の高いことと、どの年代も介護職の喫煙率が全国平均よりも高いことが認められた。また、年齢間、性別間、職種間での有意差は認められた。今回の調査ではその原因については言及をしないが、各職種共に高く、特に管理職、リハ職(機能訓練指導員を含む)、介護職、看護職、事務職 などが全国平均よりも高値が特徴的にあることは、世間一般的に医療機関、学校、公共機関や会社オフィスの禁煙化も進み、管理職・事務職・医療従事者の喫煙は減少傾向にあると思われる中、介護福祉施設の特徴を現わしているとも言える。

また、介護施設の喫煙の意識調査では、職種間、性別間、年齢間での有意差は認められず、喫煙歴とKTSND(寛容度)で有意差がみられた。このことは、職種全般、各年代、性別とも全体的な喫煙率が高いため、喫煙の意識に影響が表れなかったと思われる。

しかし、先行研究でも、喫煙者の喫煙に対する寛容度は高く、非喫煙者の喫煙寛容度と有意差があるとの報告がある。今般の調査でも同様の結果として非喫煙者との寛容度に有意差があり、さらに過去に喫煙があり現在非喫煙の人との喫煙寛容度にも有意差があることは、喫煙者にとって、介護福祉施設は喫煙者が多いからとすることは、喫煙を自己肯定していると自覚する必要と思われる。

さらに、年齢別では20歳代の喫煙率が全国平均よりも高いことは、この傾向が持続するならば、将来的に介護施設全体の喫煙率を押し上げていくことになり、どこかの年代で喫煙に歯止めをかける必要もあるかもしれない。さらに、介護福祉施設での社会的役割の上で、20歳未満の喫煙も存在する事の自覚と是正は必要であろう。

本調査は、喫煙を肯定することが目的でも、禁煙を推奨することが目的でもない。あくまで、現在の湖山医療福祉グループの喫煙の状況を浮き彫りにするためであり、この先の喫煙の原因の掘り下げや対策、喫煙・禁煙施策は各法人・各施設での展開をお願いしたい。

今後は、今般分析対象外であったアンケート調査の調査項目に対しての追加の報告をしたいと考える。

結 語

湖山医療福祉グループの職員を対象に喫煙状況と喫煙意識を検証した。

今回の調査では、どの年代どの職種でも喫煙率は高い傾向にあり、この母集団での職種間、性別間、年齢別間、職種間での有意差は認めたが、喫煙の意識では喫煙歴とKTSND(寛容度)のみ有意差が認められ、性別、年齢群、職種では有意な差はなかった。

参考文献

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