介護施設における喫煙状況と喫煙意識に関する調査

目 的

近年本邦でも喫煙に対する社会的問題が取りざたされ、学校・病院・公共施設や飲食店等での全面禁煙化がすすめられている。一方、医療従事者の喫煙率の高さも指摘されているが、介護現場での喫煙についての報告は少ない。そこで本調査では、湖山医療福祉グループの職員を対象に、喫煙状況と喫煙意識の調査を行い、介護現場での喫煙に対する検証を行うことを目的とした。

方 法

2021年に湖山医療福祉グループ(650事業所)に勤務する全職員(15,000人)に対して、無記名Web式アンケートを行った。職員は医師・歯科医師、介護職、看護職、リハ職(機能訓練指導員含む)、管理栄養士・栄養士、薬剤師、管理職、事務職、相談員、保育士・母子支援員、健康運動指導士・介護予防指導士など 介護予防スタッフ、音楽療法士・臨床心理士などの上記以外の専門職、労務職、その他であり、アンケート項目は年齢、性別、職種、勤務形態に関する項目と、喫煙に関する項目として喫煙の有無、心理的ニコチン依存の評価尺度の加濃式社会的ニコチン依存度(The Kano Test for Social Nicotine Dependence 以下KTSND)、喫煙に対する意識を調査した。KTSNDは、10項目からなる質問式アンケートを4つの答えから選択し得点化する意識調査で、喫煙状況に関係なく回答することが可能であり、総得点が高いほどタバコ製品や喫煙を許容、 肯定、容認する態度や意識が高いこと、それらの意識に対する「思い込み」が大きいとしている。すなわち、たばこに対する寛容度を表す指標として用いた。さらに、介護現場での喫煙・禁煙意識は「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うか」という質問をして、「そう思う、ややそう思う、あまり思わない、思わない」の4つの答えから選択をしてもらった。

結 果

回答は2551人、回答率は約17%であった。性別、年齢、喫煙状況、KTSNDの質問全てに回答のあった2493人を有効回答とし、解析対象とした。(有効回答率16.6%)

図1に年齢別・職種別の喫煙率を示し、折れ線グラフで令和元年度の本邦年齢別喫煙率(厚労省)を示す。女性では介護職・看護職がどの年代でも全国平均より高く、管理職の30代、40代、60代。相談員の20代、30代、40代、60代。事務職の40代、60代。労務職の20代、30代、50代、60代が高かった。男性では介護職・事務職がどの年代でも全国平均より高く、リハ職の20代、30代、50代、60代。管理職の30代、40代、60代。相談員と労務職の60代が全国平均より高値であった。性別全体では男性23.9%(187人)、女性22.6%(374人)であった。(図1)

図1 職種_年代別喫煙率

属性と喫煙率の関係は表1の通りで、現在喫煙は、サンプル数の少ない職種を除くと、職種では介護職23.7%(257人)、リハ職25.7 %(52人)、事務職20.2%(49人)、看護職23.0%(48人)、管理職25.0%(39人)、労務職20.0%(37人)、相談員19.1%(22人)、栄養23.1%(21人)等であった。年齢別では60代26.7%(60人)、20代23.2%(141人)、40代23.0%(137人)、50代22.8%(97人)、30代22.2%(130人)であった。また、20歳以下も15.0%(3人)の喫煙があった。(表1)

 Pearson のカイ2乗検定で、性(p<0.01)、年齢(p<0.01)、職業別(p<0.01)で有意差があった。

 介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うかの質問は、喫煙意識に対しての設問であるが、思わない26.1%(660人)、あまり思わない38.5%(975人)、ややそう思う220.1%(509人)、そう思う15.2%(386人)であった。現在喫煙者の「そう思う」と回答した割合は1.4%(8人)であった。

次に表 2 において属性、喫煙歴、職業、KTSND と 喫煙意識について関係を示す。年齢、職業、喫煙歴、KTSND ごとに分 け、Pearson のカイ二乗検定にて解析を行った。その結果、年齢、職業、KTSNDにて有意差はなかったが、喫煙歴(p<0.01)、 KTSND(p<0.01)で有意差を認めた。 KTSND平均は「そう思わない」18.17±5.98、「あまりそう思わない」15.17±4.78、「ややそう思う」13.13±4.63、「そう思う」9.26±5.27であった。「そう思う」群が他の 2 群 に比べ、有意に低かった(p<0.01)。 (表2)

喫煙意識に寄与する要因を検討したロジスティック回帰分析の結果を表3 に示す。「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではないと思うか」という質問に対し、従属変数は、「そう思わない」と「あまりそう思わない」と答えた群と、「ややそう思う」と「そう思う」と答えた群のカテゴリーとした。年齢を40歳以上(以下年長者群)、39歳以下(以下若年者群)として、独立変数は、性、年齢群、職種、喫煙歴、KTSND とした。結果、オッズ比(OR)、 及び 95% 信頼区間(95% CI)において、過去喫煙 (OR 4.14、95% CI:2.98-5.75、p<0.01)、非喫煙(OR 5.41、95% CI:4.12-7.28、p<0.01)、 KTSND10点未 満(OR 0.30、95% CI:0.24-0.38、p <0.01)において有意な関連を認めた。性、職種間 、若年群₋年長者群(以下年齢群)では有意な差は認められなかった。

これらの事より、「介護福祉施設の従事者は喫煙をすべきではない」という意識に於いて、 喫煙歴、喫煙への寛容度(KTSND)が寄与していた

考 察

今回の調査で、介護福祉施設の喫煙率は全国平均と比べて、どの年代も高い傾向にあり、特に女性の喫煙率の高いことと、どの年代も介護職の喫煙率が全国平均よりも高いことが認められた。また、年齢間、性別間、職種間での有意差は認められた。今回の調査ではその原因については言及をしないが、各職種共に高く、特に管理職、リハ職(機能訓練指導員を含む)、介護職、看護職、事務職 などが全国平均よりも高値が特徴的にあることは、世間一般的に医療機関、学校、公共機関や会社オフィスの禁煙化も進み、管理職・事務職・医療従事者の喫煙は減少傾向にあると思われる中、介護福祉施設の特徴を現わしているとも言える。

また、介護施設の喫煙の意識調査では、職種間、性別間、年齢間での有意差は認められず、喫煙歴とKTSND(寛容度)で有意差がみられた。このことは、職種全般、各年代、性別とも全体的な喫煙率が高いため、喫煙の意識に影響が表れなかったと思われる。

しかし、先行研究でも、喫煙者の喫煙に対する寛容度は高く、非喫煙者の喫煙寛容度と有意差があるとの報告がある。今般の調査でも同様の結果として非喫煙者との寛容度に有意差があり、さらに過去に喫煙があり現在非喫煙の人との喫煙寛容度にも有意差があることは、喫煙者にとって、介護福祉施設は喫煙者が多いからとすることは、喫煙を自己肯定していると自覚する必要と思われる。

さらに、年齢別では20歳代の喫煙率が全国平均よりも高いことは、この傾向が持続するならば、将来的に介護施設全体の喫煙率を押し上げていくことになり、どこかの年代で喫煙に歯止めをかける必要もあるかもしれない。さらに、介護福祉施設での社会的役割の上で、20歳未満の喫煙も存在する事の自覚と是正は必要であろう。

本調査は、喫煙を肯定することが目的でも、禁煙を推奨することが目的でもない。あくまで、現在の湖山医療福祉グループの喫煙の状況を浮き彫りにするためであり、この先の喫煙の原因の掘り下げや対策、喫煙・禁煙施策は各法人・各施設での展開をお願いしたい。

今後は、今般分析対象外であったアンケート調査の調査項目に対しての追加の報告をしたいと考える。

結 語

湖山医療福祉グループの職員を対象に喫煙状況と喫煙意識を検証した。

今回の調査では、どの年代どの職種でも喫煙率は高い傾向にあり、この母集団での職種間、性別間、年齢別間、職種間での有意差は認めたが、喫煙の意識では喫煙歴とKTSND(寛容度)のみ有意差が認められ、性別、年齢群、職種では有意な差はなかった。

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